ホテル王と偽りマリアージュ
どこまでも強気にしっかり顔を上げ、どこかほくそ笑んでそう宣言する一哉に、私の胸が抉られるように疼いた。
それは会議室の幹部たちも同じだったのか、一哉の報告が終わるのを待たずに、大きな拍手が巻き起こった。
その様子を目と耳で確認して、お義父さんもお義母さんも満足げな笑みを浮かべソファに大きく背を預ける。


「一哉のヤツ……ここまで動ける男だったか?」

「いいえ。もうちょっと危なっかしい子だったはずです。……これも椿さんのおかげなのかしらね」


二人がちょっと苦笑気味に言葉を交わしながら、揃って私にまっすぐ視線を向ける。
宙で視線が交差したタイミングで、映像の音声が司会役の男性の声に切り替わった。


『静粛に! それでは、二者の報告を受けまして、これより幹部投票に移ります』


それを聞いて、私はクルッと踵を返した。
お義父さんとお義母さんが、『椿さん!?』と私を呼ぶ。
社長室のドアハンドルに手を掛け、私は二人をゆっくり振り返った。


「ご、ごめんなさい! 私、今、一哉のそばにいたいです!!」


投票の結果は聞かずとも、一目瞭然だと確信している。
だからこそ、会議室から出てくる一哉を一番に迎えたくて、私は社長室を飛び出した。
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