ホテル王と偽りマリアージュ
ハジマリ
私がホテル棟のVIP専用会議室の前の廊下に立ってから三十分ほど後。
会議室のドアが開き、要さんが一番に姿を現した。


テレビ会議のモニターで見たのと同じ様に、堂々と胸を張って出てくる。
けれど、その表情は厳しく、薄い唇を噛み締めている。
そんな彼に思わず身体を強張らせると同時に、要さんの方が私に気付いた。


要さんは一瞬ハッと息をのみ、その場で足を止めた。
けれど、すぐにいつもと変わらない不敵さを全身に纏い、私の方に大股で歩いてくる。


「社長は別室でテレビ会議だって聞いた。もしかして、椿さんもそこで会議の様子見てたのかな」


目の前に立ち、どこか皮肉気にそう言う要さんから、私はそっと目を逸らした。


「はい……」

「それなら、わざわざここに来なくても、勝敗はわかったんじゃないかな?」


更にググッと距離を詰められ、私は肩も顎も竦めて彼から距離を取ろうとする。
そんな私をジッと見つめて、要さんは大きな息を吐いた。


「一哉の報告を聞いても、俺は負けてないって思った。決選の舞台が同じアメリカだったら、俺にだって同じ報告が出来た。そういう点では悔しい。不利だったと思うよ」


そう言って小さく笑う要さんを、私はそっと見上げた。
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