ホテル王と偽りマリアージュ
彼の気持ちはわかる。
なんせ、お義父さんも言ってた通り、皆藤グループはヨーロッパでは既にそれなりの経営基盤を固めている。
今回が初進出のアメリカに比べると、バックグラウンドの時点で不利だったことは間違いない。


「そう言った同情票もあって、俺は三分の一の票を獲得した。得票結果を見て、幹部たちに『この一回で決めるのは時期尚早じゃないか』と言わせることも出来た」


要さんの言葉に、自分の顔が強張るのを感じた。
けれど、要さんは小さな息をついて笑い出した。


「けどね。誰がどう見ても俺の完敗だ。たとえ次で一哉からアメリカのホテルを奪うことが出来ても……経営統合をなし得たのは一哉だ。十年後の実績まで約束されたホテルを俺が乗っ取るだけじゃないか。そんな汚い経営者に、アメリカがついて来るわけがない。俺は、そこまでして社長の座が欲しいわけじゃないよ」


そう言って、一瞬忌々しそうに表情を歪める。
黙ったまままっすぐ見つめる私に、要さんはどこか弱々しく微笑んだ。


「なにより……そんな卑怯な男じゃ、君の心を掴めない。……よな?」


そう聞かれても、私の心なら最初から決まっていた。
たとえ今回一哉が負けていたとしても。
私が要さんの物になる未来は、絶対こなかった、そう言い切れる。
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