ホテル王と偽りマリアージュ
なのに。


「いいんだよ。結婚式で」


一哉はスーツの上着を脱ぎ、ハンガーに掛けながら静かに私を振り返る。


「ごめんね。ふざけてるわけじゃないんだ。俺、椿の最初のウェディングドレス姿、ちゃんと見てなかったから。もう一度着て見せて欲しかったんだ」

「え?」


思いがけず彼の瞳が真剣だったから、私も怯みながらテンションを抑える。
一哉は上着をクローゼットに納めてから、背筋を伸ばして胸を張った。


「あの時は、隣にいるのが誰でもどうでもよかったから、気にしてなかった。……最低でごめん」


そう言い切ってから目を伏せ、彼はクローゼットから白いタキシードの掛かったハンガーを取り出した。
再びゆっくり向けられる一哉の視線に、無意識に身体が竦んでしまう。


「この先俺が本拠地とするアメリカで、椿を妻として紹介する。その為にも、今日のセレモニーは、君と本当の誓いを交わす場にしたいんだ。それと、ドレスの君を見せびらかしたいって男としての見栄も多少はあるんだけど」


静かに穏やかに、一哉が一歩ずつ私に歩み寄ってくる。
彼が近付くごとに胸の鼓動が大きくなっていくのを感じながら、私の手を取る一哉をジッと見つめる。
一際大きく胸を高鳴らせる私の前で、彼は静かに床に片膝をついた。
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