ホテル王と偽りマリアージュ
一哉の腕に手を掛け、ワイングラスを片手に招待客たちに挨拶回りをしていると、背後から日本語で話し掛けられた。


「ここはアメリカなんだから、キスくらいして見せ付けてやればよかったのに」


ちょっと意地悪な笑い混じりの低い声。
私も一哉もほとんど反射的に振り返った。


「よお。お招きどうも」


振り返らずとも誰だかわかっていたけれど、そこに立っていた黒いタキシード姿の要さんが、軽~い調子でそう続けた。


「要。忙しいのにありがとう」


一哉も明るく顔を綻ばせて、要さんと握手をする。
一度強く握り合い手を離すと、要さんはニヤニヤしながら私を覗き込んできた。


「いや、むしろ見せ付けて欲しかったな、俺としては」

「もしかして、さっき言ったの、要さんですか」


思わず頬を膨らませながら問い詰めると、彼はひょこっと肩を竦めて逃げるように目を逸らした。
このわざとらしい反応と表情、絶対そうに違いない。
私と要さんのやり取りを聞いて、一哉がわずかに苦笑した。


「他人のキスなんか見て、なにが楽しいの」

「そ、そうですよ! そんなの、人に見せるもんじゃ……」

「だって、結婚式なんだろ?」


口々に言葉を返す私と一哉を、要さんはあっさりと遮った。


「二度目にして、本物の」


斜めの角度から私を見下ろしながら、彼が畳み掛けた時。
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