ホテル王と偽りマリアージュ
一哉の言葉に本気でギョッとするけれど、彼は切なげな吐息を漏らしながら私の肩口に顔を埋めた。


「ああ~、もう、早く帰りたい」

「いち……ひゃっ……!」


一哉が私の首筋にキスするのを感じた。
そのまま唇を這わせる一哉に焦って、私は思わず声を上げていた。


「大丈夫。ここで脱がせたりしないから。これでなんとか我慢するから、ちょっとだけ」


そんな言葉で甘えながら、一哉の唇は首筋から喉、鎖骨にまで這っていく。


「んっ、やあっ、一哉っ……」


くすぐったくて恥ずかしく堪らないのに、背筋がゾワゾワする。
足が震えそうになって、思わず彼に抱き付くと……。


「……ダメだ。考えてみたら、こんなことして我慢出来るわけがない」


そう呟きながら、一哉は私のドレスの胸元、胸の谷間に出来た隙間に、クイッと人差し指を突っ込む。


「ちょっ、ダメ、一哉!」


慌てて彼から腕を離し、そのまま下に下げられそうなドレスの脇を持って引っ張り上げた。
涙目になりながら一哉をジトッと睨むと、彼も肩を竦めてクスッと笑った。


「早く帰ろう、椿」

「も、もうっ!」

「後は親父たちに任せて。大丈夫。だって今夜は『初夜』だから、ちょっと早く抜け出しても、誰も無粋なことは言わないよ」
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