ホテル王と偽りマリアージュ
世界が注目する全米一の若きホテル王は、どこまで本気かわからないことを、私だけに平気であっさり言いのける。
今度こそ半分以上呆れてポカンと口を開けながらも、彼のグレーの瞳は相変わらず魅惑的だから、私は一瞬吸い込まれかける。


「……ダメ。後一時間くらいで終わるから」


自分を律するようにそう言って、俯く。
一哉が甘えるように私の頬を指でなぞる。
優しく甘い感触に身体がピクッと震えてしまうけれど。


「そうだね。じゃあ、今夜は初夜のやり直し。約束だよ。椿」


一哉は私の頭上で呟くと、クスッと笑った。


『いろいろやり直さなきゃ』という彼の言葉を思い出す。
今日のウェディングドレスもびっくりだけど、結局私の為に考えてくれてることだから、嬉しくないわけがない。


一年間の期間限定という契約で始まった私たちの結婚生活。
契約は既に撤回されたし、最初の約束の一年も過ぎ去った。
一哉の言う通り、今日は本当に『結婚式』にはベストだったのかもしれない。


「……早く帰りたいね」


一哉の茶色い髪を撫でながら、そんな本音で彼に返事をした。
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