ホテル王と偽りマリアージュ
一日の業務を終えた後、私は思い切って役員フロアに足を運んだ。
これまで六年間このオフィスで働いてきたけど、平凡な一社員の私にとっては、足を踏み入れる機会もなかった場所だ。
業務上でも用はなかったし、もちろん来たいと言っても門前払いでしかなかった場所。
なのに今は、アポ無しでも役員受付で名前を告げれば、一哉が在室中なら無条件で通してもらえる。
重厚なドアを前に、一度ゴクッと唾をのむ。
思い切って力強く二度ノックすると、中から『どうぞ』と返事が返ってきた。
「失礼します」と言ってから、ドアを開ける。
中に入った途端に、立派なデスクで仕事を進める一哉の姿が目に飛び込んできた。
大きな一枚ガラスの窓を背にしている。
私の位置からでも、都会のオフィス群の夜景がキラキラと浮かび上がって見える。
と言うのも、十畳ほどの広さの役員執務室の照明が、全て落とされていたせい。
一哉はデスクの上の卓上ライトとパソコンモニターの明かりだけで仕事していたのだ。
「どうしたの? 珍しいね、椿。って言うか、ここに来るの、初めてか」
一歩入ったまま立ち尽くす私に、一哉は書類に視線を落としたまま訊ねてきた。
「暗くない? なんで電気……」
そう言いながら背後の壁を振り返って、部屋の電気のスイッチを探す。
これまで六年間このオフィスで働いてきたけど、平凡な一社員の私にとっては、足を踏み入れる機会もなかった場所だ。
業務上でも用はなかったし、もちろん来たいと言っても門前払いでしかなかった場所。
なのに今は、アポ無しでも役員受付で名前を告げれば、一哉が在室中なら無条件で通してもらえる。
重厚なドアを前に、一度ゴクッと唾をのむ。
思い切って力強く二度ノックすると、中から『どうぞ』と返事が返ってきた。
「失礼します」と言ってから、ドアを開ける。
中に入った途端に、立派なデスクで仕事を進める一哉の姿が目に飛び込んできた。
大きな一枚ガラスの窓を背にしている。
私の位置からでも、都会のオフィス群の夜景がキラキラと浮かび上がって見える。
と言うのも、十畳ほどの広さの役員執務室の照明が、全て落とされていたせい。
一哉はデスクの上の卓上ライトとパソコンモニターの明かりだけで仕事していたのだ。
「どうしたの? 珍しいね、椿。って言うか、ここに来るの、初めてか」
一歩入ったまま立ち尽くす私に、一哉は書類に視線を落としたまま訊ねてきた。
「暗くない? なんで電気……」
そう言いながら背後の壁を振り返って、部屋の電気のスイッチを探す。