ホテル王と偽りマリアージュ
やっぱり無自覚だったのか、一哉は眉をひそめて私を見つめる。


「い、一哉の言う通りだよ。私、今まで男の人と付き合ったことはあっても、『色気がない』って言われて、振られたの」


真剣にムキになって言い返した私に、一哉は一度大きく目を見開いた。
そして、再び肩を震わせて笑い始める。


「そっかそっか。……よかったね、椿。色気なくて」


続いた言葉には、本気でブチ切れそうになった。


「一哉、最低……!」


思わず吐き捨てるようにそう言った私に、一哉は笑い声を噛み殺しながら歩み寄ってくる。


「よかったじゃん。せっかくだから、最後まで大事にしなよ」


そう言いながら、一哉は私の頬を優しく撫でた。
その温もりにドキッとする私に、柔らかい微笑みを向ける。


「椿が本当に一生を連れ添う男の為に、とっておきなって。きっと、椿が心底から惚れる男なら、椿の初めてもらうの、嬉しいと思うから」


吸い込まれそうなくらい優しく細めた瞳でそう言いながら、一哉は私から手を離した。
なにも言えずに立ち尽くす私に背を向け、再びデスクに戻っていく。
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