ホテル王と偽りマリアージュ
そんなわけで、今は家の中でも『人前』と同じ状態。
一哉が言った通り、まるで監視してるような要さんの視線を浴びて、普段は絶対やらない『休日の新婚さん』ごっこをする羽目になったのだ。


もちろん要さんのご指摘通り、一哉とキッチンに並んで立つなんて、普段はほぼ皆無に等しい。
一哉の庶民的な味覚に助けられ、食事はだいたいいつも私が作っている。
つまりこれも、要さんの前だから必要な『夫婦の演技』ということだ。


「すみません。こんなもので」


出来上がったミートソースのスパゲティをテーブルに振る舞いながら、私は上目遣いに要さんを窺い見た。


一哉より二つ年上の三十四歳。
父方の従兄弟だって言うから、一哉と違って生粋の日本人だ。
一哉ほど完璧な王子様じゃないけど、ちょっとタイプの違う精悍な印象のイケメン。
働き盛りで、追い風に乗って上昇気流の男、って感じ。


横目で観察していたのは私だけじゃないらしい。
要さんの方は真正面から遠慮なく私を観察していたみたいで、目が合った途端、慌てる様子もなくニコッと微笑まれた。


「ウチの親や妹が『えらい地味なお嬢さん』って言ってたから、どんなもんかと思ったけど。地味って言うか、華がないだけだね。一皮剥けてない感じ」


わざわざ言葉を換えながら酷いことを言う。
さすがに笑顔が凍るのを誤魔化せなかった。
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