ホテル王と偽りマリアージュ
週の真ん中の水曜日の夜。
私はお義母さんに連れられて、皆藤グループ所有の都内の美術館に足を運んだ。


海外の美術館が所有している有名絵画の一般公開を来週に控え、その特別先行展示会が行われる。
今日はそのセレモニーに出席しろとのお呼び出しだった。


『椿さんが経理のお仕事辞めてくれれば、もっと連れて行きたい所がたくさんあるのに』とちょっとぐちぐち言われ、肩を縮める羽目になった。


一哉のご両親は、ホテル王とその妻というすごい肩書の割に、とても気さくで優しい方たちだ。
こういう親の子だと思えば、一哉の物腰が柔らかいのも頷けるというもの。


とは言え、アメリカ人とのハーフのお義母さんは、まだまだ若い上にモデル張りの美人でゴージャスな人。
彼女に連れ歩かれる私は相変わらず貧相で、行く先々で気後れしてしまう。


今回は、華やかなセレモニーだから、とドレスを用意されてしまった。
お義母さんのお下がりだと言われて断れなかったけど、なんとも胸元が心許ない。
サイズは手直ししてもらったけど、気を抜いたらストンと落ちてしまいそうで怖い。


こんな格好、昔からの知り合いとかには絶対見せたくないな、と、私は必要時以外は出来るだけ壁際に寄って目立たないようにしていた。
なのに。
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