ホテル王と偽りマリアージュ
素っ気ないとか息苦しいとか、よそよそしいとか、そういうのとはちょっと違う。
ただフワフワして落ち着かない空気を纏ったまま、週が明けて新しい一週間が始まった。


いつも通り出勤支度をする私に、一哉は『今日は大事をとって休んだ方がいい』と言ってくれたけど、そういうわけにもいかない。


一哉の妻としてのお務めはオフィスでも業務扱いしてもらえるけど、先週は本来の経理部の仕事をまともにこなせず、だいぶ滞ってしまってる。
十一月という手元が落ち着く時期なのが幸いだけど、まったく仕事に影響がないわけじゃない。
先週の遅れを取り戻す為にも、大事をとるなんて呑気なことは出来ないのが現状だ。


『大丈夫』と言いながら、心配してくれる一哉にきっぱりと背を向けた。
素直に頷かなかったのは、仕事ばかりが理由じゃないことは、自分でもわかっていた。


いつもよりちょっと早めにオフィスに入り、溜まってしまった経費処理を進める。
入社時からずっと担当していて、慣れた仕事に没頭しているうちに、周りの同僚たちも出勤してきた。


隣に芙美がやってくると、始業時間後でも、時々雑談も交えながら楽しく仕事が進む。
ちょっと手を休めた時、芙美も同じタイミングで軽く伸びをしながら、『ねえ』と声を掛けてきた。
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