ホテル王と偽りマリアージュ
「今週は皆藤さんの代理はしなくていいんじゃないの？」

「？　うん」


私も大きく前に両手を突き出し、クーッと身体を解しながら聞き返す。
そんな私に、芙美はクスッと笑った。


「その割にはちゃんとビシッとスーツ姿なんだ？　いつもの適当なニットカーディガンとフレアスカートに戻ってよさそうなもんなのに」


揶揄するような言い方に、私はムッとしながら肩を竦めた。


「先週、あれだけみんなに『社長夫人っぽくなった』なんて言われちゃあね。必要ないからって元に戻すわけにも……」

「へ～？　変なの。だって一年後には晴れて自由の身なんだから、逆にイメージ固めない方が安心なんじゃないの？」


ニヤニヤしながら小声で鋭くツッコむ芙美に、私はギクッと肩を震わせた。


「皆藤さんと一緒にいなくても『社長夫人』でいるなんて。椿も割と満更でもない感じ？」


小首を傾げながら向けられる斜めの視線が、完全に私を探っていて居心地悪い。
私は芙美からツーッと視線を逸らしながら、まっすぐ前を向いた。


「だって仕方ないじゃない。どこで誰がどんな目で見てるかわからないし、気を抜いてもしもバレたら、私、一億近い借金抱えて路頭に迷うことになるんだし……」


芙美には話してるからこそ、私は唇を尖らせてブチブチと愚痴を言った。
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