だから今夜も眠れない
「はあ、眼福ーっ」

「美形だわあ」

「あの人に似てません?韓国のチャンなんとか?」

「ええ、ええ、そっくりだわ。グンソクさまあ♡」

浮世離れした王子に、

ボランティアのおばさまがたが色めき立ってた。


分かりますよ、皆さん。


さっきまでの憂鬱なんてぶっとぶほどの、麗しさですもの。


私は、ギクシャクやり取りをした後、早々に準備室に引っ込んだけれど、

高鳴る心臓を落ち着けるのに必死だった。


そのくせ、あの親子を目の端にいれずにはいられないのだから。


こういうのは恋とか言うのではなく、

きっと美しいものを愛でたいという欲求を押さえることは容易ではないからだ。


あの小さな姫が楽しそうに工作する様子を目を細めて眺める様子は、

フォーカスがかかって、お伽噺の一場面みたいだ。


「山積さん、楽しんでいただけましたか?

 こちら先程の写真と、持ち帰りに使っていただく袋で

あと、体験料500円の領収書です。

お納めください」

彼の名は 山積さんという。

まあ、申込書を見ただけなので名字の見しかわからないのだが。


「ありがとうございました。

ほら、りゅかも先生にお礼言って」


「ありあと、えーと、おねいさんおなまえは?」


「さやか。立見さやかですよ。りゅかちゃん?

楽しかった?」


「やまづみりゅかってゆう。

たのしかったのとっても。

帰ったらママにあげうの」


「ママに?そう、きっと喜ぶね」


「うん」


そうかママいるよね当然。

軽くショックを受けるが顔には出さない。

がっつり身につけた職業スマイル、そう簡単には崩したりしないわよ。


「あの、この写真なんですがデータいただけますか?」


「申し訳ありませんそういうサービスは行ってないんですが」


「そうですか」


別に本人に渡すのであれば肖像権も発生しない。

データーを渡す位大したことはないのだけれど、

そういうサービスを行わないのは、始めてしまうと止められなくなるからだ。


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