エリート専務の献身愛
 この自己中な男の手に噛みついてでも、大声を出したらここから逃れられる。
 するべきことはひとつなのに、まるで金縛りにあったように、大きな声が出せない。

 せっかくのチャンスなんだから……! しっかりしろ、自分!

 バクバクと鳴る心臓に負けないように、すぅっと息を吸い込んだ。次の瞬間。
 バァン!という、ドアが蹴破られそうなくらいの音に目を見開いた。

 な……なに……?

 今置かれていた状況とべつの恐怖感が襲ってくる。
 肩を竦め、ドアに視線を向け続けている間も、激しくドアは叩かれていた。

「い、いったいなんだ?」

 辻先生も、堪らずドアに足を向け、解錠すると隙間から外を窺った。すると、訪問者は強引にドアを押し開けた。

 辻先生の背中で遮られていて、どんな人がそこにいるのかわからない。
 でも、そんなことよりも、逃げ道は開けられた。早くここから出なくちゃ!

 急いでカバンを拾い上げ、ドアへ一歩踏み出した。

「辻先生、ですね?」
「そちらは……?」

 辻先生が怪訝な声で尋ねた答えを聞く前に、私はもうわかってしまった。

 今聞こえた声は……。

「浅見と申します。城戸瑠依を返していただくのに伺いました」

 浅見さん! なんでここに……!?

 目を剥いて顔を上げる。辻先生と対峙している人は、紛れもなく浅見さんだった。
 彼は私と一度目を合わせ、すぐに辻先生へ笑顔を向ける。

 にっこりと笑う雰囲気は、警戒して険しい表情をしている辻先生と正反対。ふたりの態度があまりにかけ離れていて、違和感しかない。
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