エリート専務の献身愛
 背中に向かって言われた言葉に足を止めてしまった。

 さっきまではただのハッタリかと思っていたけれど、つい最近浅見さんは忙しそうにしていたし、日本に来たのもついこの間だということが当たっていたから。

 ……いや、でも、そのくらいなら適当に言っても当たりそうなことだ。占いと一緒。大抵のことに当てはまりそうなワードを並べただけ。

 思い直して振り返るのをどうにか堪えた。
 だけど、辻先生は焦りを見せることなく、余裕声で話し掛けてくる。

「学会で最近まで海外にいたドクターと話す機会があってね。むこうのホープロエクスと交流があったそうで。その彼から面白い話を聞いたよ」

 胸の奥がざわざわする。
 こんな人の話を聞いちゃいけない。心が乱されるだけだ。

 そう思っているのに、私はその場から動けず……いや、動かず、話の続きを待っていた。

 横目でちらりと辻先生を見ると、私の本心をわかっているかのように笑っている。
 彼はにやついた顔で私にゆっくり近づいてきて、行き先を阻むように正面に立つ。

「シアトル本社の上層部には日系の若い男がいて、情報管理のほか、日本支社の内部監査も任されているって話」
「内部、監査……?」

 揺らいだ瞳で無意識に繰り返す。

 内部監査ってどんな内容なのか、はっきりわからない。けれど、もしかして今朝聞いた部長の解雇とか、そういう件にも関わったりする?

 待って。わからない。

「あれ? もしかして、なにか心当たりでもあった?」

 辻先生はニヤニヤと口元にいやらしい笑みを浮かべ、私の顔を覗き込む。私はパッと顔を逸らし、唇を引き結んだ。

 浅見さんが日本に来たのはだいたい十日前。社内でリストラがどうって噂を聞いたのは、そのあとで……。でも、あのとき、確か女性が出入りしているって聞いて……。

 俯いて考えていると、ハッと思い出す。

「でも、どうしてそんな立派な肩書きの彼が、末端の社員である君に近付いたんだろうね?」

 噂で言っていた『本社の女性』が、レナさんだったとしたら……?

 心臓がバクバク騒ぎだし、変な汗が滲み出る。
 辻先生が、私の顎をクイと持ち上げた。

「案外、君も調査の対象だったりしてね」

 満面の笑みで言い、勝ち誇った目を向けて立ち去ってしまった。
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