エリート専務の献身愛
 月島総合病院の予定だけはどうにかこなし、院外に出たあとすぐにカバンを探る。

 手帳に挟んであった名刺を手に取り、しばらく見つめる。
 そして、決心をつけた私は、携帯を取り出した。

『はい』
「あの、私……城戸です」

 凛とした声で返され、自分から電話を掛けたはずなのに、おどおどしてしまう。

『昨日はどうも。ご用件を伺います』

 レナさんは、やっぱりいつでも動揺することはなさそう。
 そんなことを思い、本題になかなか進めずそわそわする。

「あ、あの」
『失礼ですけれど、忙しいのは総だけじゃなく、わたしもなの。用件がないなら、切らせてもらいます』

 レナさんにばっさり言われ、慌てて用件を口にした。

「あっ、浅見さんとあなたは、ウチの本社の方だったんですか!?」

 確かめるのは怖かったけれど、辻先生から聞いてしまった以上、知らないふりもできない。
 だけど、浅見さんに確認するまでの勇気はなかったから。

 勢いで尋ねたはいいけれど、レナさんの応答がなくてさらに落ち着きがなくなる。
 やっぱり、辻先生の話は作り話で、私はいいように踊らされたんだ。

「す、すみません。突然、変なことを」
『そうですが、なにか?』

 私の言葉に被せ、レナさんがしれっと答えた。
 あっさり肯定され、頭の中が真っ白。息が止まる。

『だいたい、この間のドクター辻との件、不思議に思いませんでした? なぜ、総はあなたのいた病院がわかって助けに行けたのか』

 あの日のことを、レナさんも知っているのだという驚きもあったけれど、今はやっぱりそれどころじゃない。

 浅見さんが、本社の人……?

 あの夜、私を辻先生から助けてくれたのは、偶然浅見さんの予想が的中してくれたおかげだとばかり思っていた。
 でも、違うの? じゃあ、真実はいったい……。

 頭の中で『なぜ』『どうして』がぐるぐる回る。
 私が言葉を失っていると、レナさんはさらに続けた。

『浅見総は、シアトル本社で専務兼、最高情報責任者(CIO)に就いている方です』
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