エリート専務の献身愛

 大きなあくびをして目を擦る。
 スッキリしない頭はしょっちゅうだけれど、今日のは格別だ。

 無意識に何度も溜め息をついていた。それに気がついたのは、鏡を前にしたときだ。

「あ……」

 化粧を終えて髪を結おうと思った次の瞬間、声を漏らした。

 最近いつも同じヘアゴムを使っていた。
 ビジューのついたヘアゴム……昨日、浅見さんのところに忘れてきちゃった。

 ホテルのデスクに置いたのは浅見さんだった。
 私の髪を解いて、大事そうに指を滑らせてくれて……。

 ――『明後日シアトルに戻る。瑠依。一緒に来ないか?』

 昨夜のことが一瞬で蘇る。

 私……『はい』と即答できなかった。
 まさかそこまで、もう時間がないと思っていなかったから。

 鏡の中の自分と向き合う。そして、そっと指で触れた。

 あんなセリフ……簡単には言えないもののはず。たったの約二週間しかいない私相手に、どうしてあんなことが言えたの? やっぱり、上に立つくらいの人は、決断力が違うってこと?

 自分の顔が、ますます曇っていく。
 また頭の中で声がする。

 ――『今じゃなくてもいい。明日、また会おう。そのときに返事を聞かせて』

 今日、私はなんて返事をすればいいんだろう。
< 164 / 200 >

この作品をシェア

pagetop