エリート専務の献身愛
 シャワーを借りて出ると、ソファに座る浅見さんがおまんじゅうを食べていた。

「瑠依ごちそうさま。餡子ってやっぱり不思議な甘さだな。意外にたくさんいけそう」
「あ、いえ! お口に合ってよかったです」

 手土産に……と持参したものは、ベタだけれど和菓子の詰め合わせ。

 海外生活だった浅見さんって、あまり口にしたことないのかなって思って。それに、今まで蕎麦とか焼き鳥とか、すごく美味しそうに楽しそうに食べていたから。

「瑠依もここ座って食べなよ」

 ポンとソファの上に手を置いて食べかけのおまんじゅうを口元に差し出される。私はおずおずと隣に腰を下ろし、羞恥心を抱きながらも素直に口を開いた。

「あ、美味しい」

 上品な甘さが口内に広がって、思わず感想を零していた。

「なんだ。瑠依も食べたことなかったの?」
「実は。このお店、最近知って」

 浅見さんはクスクスと可笑しそうに笑う。
 些細なことがとても幸せで、今食べた優しい味がより美味しく感じられた。

 ふと、隣を見ると、浅見さんがなにか考える顔でサイドテーブルのお菓子を見ている。

 ああ。また仕事の邪魔をしてしまったかもしれない。

 我に返り、すっくと立ちあがる。

「じゃ、じゃあ、もうそろそろ帰ります」

 このまま泊まろうだなんて思ってはいなかったけれど、うっかり何も考えずにのんびりしてしまった。私も帰って、明日の準備をしなきゃ。

 ササッとカバンを手に取って、一礼して踵を返す。

「瑠依に言っていなかったことが、もうひとつある」

 出口へ一歩踏み出した際、手首を掴まれて言われた。
 発された声も、振り向いて見た顔も真剣なもの。

「え……?」

 聞くのが怖い。

 無意識にそういう感情が先に来た。
 でも、彼の訴えるような、鬼気迫る瞳に身動きが取れない。

「オレは、明後日シアトルに戻る」

 静まり返る部屋で、私の時間が止まった。何度も頭の中で今耳にした言葉が繰り返される。

「あさっ……て?」

 知っていたはずなのに。
 彼にはリミットがあるって。

 でも、そんなこと忘れるくらい、一生懸命になっていた。

 この人の隣にいることに。

「瑠依。一緒に来ないか?」

 まるでプロポーズのようなセリフ。

 それにもかかわらず、私は喜ぶことも涙を流すこともできなくて。ただひとり止まった時間の中で、彼が純黒の瞳に私を映し出すのを傍観するように立ちつくしていた。
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