エリート専務の献身愛
「……は? ていうか、だれだよお前。ああ、なんだかんだ言って、そっちも同じようなことしてたって話か。だからこっちの話題には触れなかったんだ」
「違っ……」
「彼女は、道に迷っていた僕を助けてくれていただけだよ。噂には聞いていたけれど、東京がここまで複雑だとは思わなかった」

 私が不利な方向に持っていかれそうだったのを、浅見さんはさらりと返してくれる。
 でも、由人くんは半信半疑だ。

「道に迷っていただけ? なら、首突っ込んでくるなよ。たかが田舎者の通行人が」

 浅見さんは嘘をついていないけれど、番号交換までしていることを考えると、私はなにも言えなくて黙ったままだった。

 浅見さんは終始堂々としていて、こんな時にも関わらず感心してしまうほど。
 眉ひとつ動かさないかと思えば、今度は優雅に微笑をたたえる。

「女性が侮辱されているのを近くで見ていて、黙っていられないだろう。彼女は君が言うような人間には到底思えないしね」
「はあ? 行きずりのヤツがなに言ってんの?」
「僕は仕事柄、観察力や洞察力に長けてると自負している。自信はあるよ」

 普通なら、ここまで自分を評価するような発言をされたら呆気に取られそうなものなのに、浅見さんが言うと冷めた感情にはならないから不思議だ。

 彼のことをなにも知らないのに、なぜか納得させられる。

 容姿端麗だと、なにを言っても許されるということなのかと頭を掠めたけれど、見た目だけじゃない気がする。
 浅見さんをつい凝視してしまう。すると、由人くんが苦虫を噛み潰したような顔で噛みついた。

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