エリート専務の献身愛
「へえ。メニューが豊富だな。瑠依はなにがいい?」
「え? あ、でも私やっぱり……」
「ここまで来て、『やっぱり』はナシ」
「……じゃあ、ざるそばを」
「OK」

 浅見さんが店員さんを呼び、ざるそばを二人前注文する。

 彼を見て思うけれど、本当になんに対しても自信があるように見えるというか、物怖じしないと感じる。

 渋谷の街にも、引き戸や座敷にも慌てることなく、自ら手を上げて店員さんを呼んでしまう行動力には、心底感心させられる。
 そして、私はその積極さに救われたんだなと、改めて思い、頭を下げた。

「あの、さっきはお見苦しいところをお見せして……。しかも、助けてもらってすみませんでした」
「べつに気にしなくていいよ。僕が勝手にしたことだから。逆に首を突っ込んでしまって申し訳なかった」

 スマートな受け答えにこれ以上言葉が出なくて、ただ何度も首を横に振った。

 少しの間、沈黙が流れる。
 目のやり場や話題に困って、咄嗟に卓上のメニューを手に取った。

「あ、あの、お蕎麦って口にされたことありますか?」

 当たり障りのない、中身のない話題を振っても、彼は終始にこやかに対応してくれる。

「何度かあるよ。ワシントンは産地でもあるし、結構日本料理店も多いから」
「え、そうなんですか」
「それに、家では今まで日本食を作ってくれていたし。だから、和食が一番馴染みが合って好きだ」

 とても不思議。

 昨日まで知りもしない相手とこうして蕎麦を待っている。

 しかも、その相手が特殊だ。
 どう見ても純日本人。けれど、日本には先日来たばかりだという。

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