エリート専務の献身愛
 付き合ってもうすぐ一年になる彼、由人くんは本当に自由だ。
 会社がお互い近くて、たまたま話すようになって、告白されて今に至る。

 彼は、基本残業のない事務職で、仕事後は思いのままに行動しているっぽい。

 例えば、前日に友達と飲みに行く約束をしていても、終業時間間際になってそういう気分じゃなくなれば平気でキャンセルするし、それをあまり悪いと感じていないように見受けられる。

 付き合いのある友達というのは、そんな彼の性格を知っている人ばかりが残っていて、それがまかり通っているから余計に悪気なんてないんだと思う。

 彼と一緒にいるようになって、彼の自由奔放さは自分にはないもので、そこに魅力を感じたのも事実だ。

 けれど、さすがに自由と我儘のはき違えには気づいているし、社会人にもなって無責任な行動は直してほしい。

 なんて、何度かやんわり伝えてみたけれど、あれは聞き流していたな、きっと。

「あー、世の中理不尽なことだらけ」

 レンジのガラスからオレンジ色の光をぼんやり見つめ、知らぬうちに吐露してしまう。

 パッとしない一日を振り返る。
 営業先で冷たくあしらわれるのなんて、珍しいことでもなんでもない。

 社に戻っても、特別仲のいい社員がいるわけでもなく。
 話し掛けられたと思えば、書類を作成するよう頼まれたり。

 ピーピーと温め終了を知らせる音にハッと意識を引き戻され、レンジの扉を開ける。

「あっつ!」

 浅皿の淵に指を添えるも、瞬時に手を引っ込め声を上げる。
 彼氏とも最近は微妙な感じで、料理もまともにしていない時に火傷するなんて失笑するしかない。

 私は開けっ放しのレンジに背を向け、流水で指を冷やしながら深い溜め息を吐いた。
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