エリート専務の献身愛
 一瞬ドキリとしたけれど、杞憂だった。
 前も食事に誘われたし、仕事を理由に連れ出されるかと思ってしまった。

 もしかして、私が過敏になりすぎていただけで、今までのも、ほかの人から見たら警戒するほどのことじゃなかったのかも。

 辻先生のことを悪いほうに決めつけていたと、心の中で反省する。

「え、と……何時くらいでしょうか?」
「んー。八時前かな」

 きちんと接待規制のことも汲んでくれて、場所を院内にってはっきり言った。

 それなら完全に仕事なわけだし、大丈夫だよね。

 私は腕時計を見て答える。

「わかりました。では、その頃また伺います」

 今はまだ六時前だけれど、この広い病院なら時間はいくらでも潰せる。まず残りの科を回って、そのあと持ち歩いているパソコンで日報を作成したりすれば……。

 頭の中でタイムスケジュールを組んでいると、辻先生が忙しそうに先を歩きながら言う。

「あ、じゃあ、直接八階の応接室Bって部屋に来てよ。待ち合わせてから移動する時間が勿体ないから」

 辻先生は口早に言い残し、白衣を翻して医局へ入って行ってしまった。

 私が辻先生のところに来るようになって以来かもしれない。こんなにあっさりした態度を取られるのは。

 きっと、単なる暇つぶしで営業の私なんかに声を掛けてきていたんだよね。で、私がいつも食事の誘いとかをスルーするから、いよいよ興味なくなったとかそんなところかな。
 それは仕事がしやすくなって、好都合だ。

 ホッと胸を撫で下ろし、カバンを反対の肩に掛け直して移動した。
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