エリート専務の献身愛
 ああ、お腹空いたなぁ。会社に戻っていたら、おにぎりでも食べながら仕事できるのに。

 ひと気のないベンチの隅に座り、パソコンをポチポチと弄る。
 今周りに人が見当たらなくても、いつ病院関係者が通るかわからない。飲食しているところを見られるわけにはいかないから、もうしばらく我慢だ。

 あ、そうだ。一応部長に一本連絡入れておいたほうがいいか。

 周りを見回し、携帯電話禁止エリアではないことを確認し、ポケットから携帯を取り出す。人差し指を画面に落とすのと同時に、携帯が振動した。

「ひゃっ」

 あまりにタイミングが良すぎて、ついビクッと肩を上げて驚いた。
 静かな廊下のため、バイブ音も響き、自分の心音も大きく聞こえる。

「えっ……」

 自分の携帯を凝視する。なぜなら、着信の主は浅見さんだからだ。

 振動音が手の中から聞こえるたび、冷静でいられない。マナーモードにもかかわらず、微妙な音が耳に大きく聞こえる錯覚に囚われる。
 咄嗟に【拒否】を押してしまってハッとした。

 ど、どうしよう。拒否って、相手側にはどういうふうに伝わるんだろう。私、もしかしてすごく失礼なことをしてしまったかも……。

 おろおろとするも、すでに取り返しのつかない状況。
 それに……私からは連絡をしないようにしようって昨日決めた。

 携帯を見つめ、ぎゅっと握り締める。

 それからややしばらくしてから、部長に電話を掛けた。

 予定外の仕事が入ったので帰社が遅れる旨を伝えると、「直帰していいから」と言われ、少し気が抜けた。

 さすがにこの後会社戻って、書類作って……なんてやってたら、終電逃してタクシーコース確実だもん。

「ふー」と息を吐き、腕時計を見ると、長針は九を指している。
 約束の時間まで十五分。そろそろ応接室に移動しておこう。
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