恋文参考書




けっこう気に入っていたんだけど、こんなに何人もの人が言ってくるってことは、もしかしてすごい香りだったりして。

冗談のつもりで思い浮かべた言葉は、驚くほど信憑性がある。



もし本当にそうなら、これは由々しき事態だ。

気づいていなかったとはいえ、そんな香りを振りまいていたら……ありえない失態じゃない。



「もしかして、香りきつい⁈」



思わずばっと距離を取る。

そのまま彼の手からすり抜けさせて、両手で首裏の髪をぐしゃりと強く掴んだ。



香水かと訊かれてしまったし、つけすぎだろうとか思っていたりして。

……なんて、そんなことを考えてしまえば今みたいな近距離に耐えられるはずがない。



つけすぎた香水の、鼻につくこと。

そんな失敗をするのは幼い子どもか空気の読めないおばさんくらいだ。



どうしようもない羞恥心で胸がえぐられるよう。

いやだもう、もう恥ずかしい、消えてしまいたい。



「別にそういうんじゃ……。
近くに寄らねぇとわかんねぇし」

「本当……?」



おそるおそる、疑ってかかりながらも尋ねる。

うそを吐いていないか、じとりと見つめた。



「うん」



そう言った章の顔が近づき、視界いっぱいに彼のあごの先と唇が広がる。

前髪かつむじのあたりですん、と章が鼻を鳴らした。



「この香り、好きだ」






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