恋文参考書
お互いに満足のいく買いものを終えて、店を出る。
レターセットの入った紙袋を胸に、ふうと柔らかな息を吐き出した。
今日あたしたちが買う予定をしていたのはレターセットのみ。
なんともかんたんに済んでしまう用事で、もう目的は達成してしまった。
このあとふたりでどこかに行くような流れになるとは思えないし、きっとここで解散だ。
名残惜しい、なんて思っているのはあたしだけ。
それに付き合わせるなんてできるはずもなく、しょっぱい感情を噛み締める。
だけどなんともないように、彼を見上げて笑ってみせた。
「それじゃあ、」
「腹」
章が遮るように口にした単語を耳にし、ぱちぱちとまばたきをする。
はら。
……ってどういうことだろう。
「……空かねぇ?」
目を見開く。
とくとく、鼓動が指先まで伝わるみたい。
緊張を隠すように手に力を入れたせいで、紙袋はくしゃりと歪んだ。
「空いた」
うかがうように、だけどそんな様子は見せないように、ぽつりと言葉を返した。
自身の髪をかき混ぜた章はつん、と強気な表情でひとつ頷くと、あたしに背を向けて歩き出す。
「ちょっと、章?」
「仕方がないから、付き合ってやる」
ちらりと振り向きそう言った彼の耳がほんのりと赤く、あたしは笑みをこらえることができず、息をもらした。
跳ねるように3歩、章と肩を並べる。
「それはそれは、どうもです」
「は?」
「いいえ。ありがとうね、ツンデレ」
「……クソが」