恋文参考書




「あ、それは大丈夫! お姫さまは実はね、」



勢いづいて身を乗り出していたところ、突然章はあたしの口を塞いだ。

唇に彼の熱い掌が触れて、息がとまる。



なに、これ。

なんでこんな、章の手があたしのところに、……どうして。



真っ白に染まる頭の中、ぱちぱちと星が弾ける。

鮮やかに色づいて、目が回ってしまいそう。



「ネタバレ禁止」



むすっと怒った表情の章が視界に飛びこんでくる。

それが冗談じゃないとわかって、心臓のあたりがむずむずする。



なんてことない話題のつもりで、話そうとしたことは言われてみれば確かにネタバレになる内容だった。

だけど、あたしの小説でそんなことを気にする人がいるなんて思わないじゃない。



知り合いだから友だちだから、そんな理由で読んでくれているんじゃないんだ。

章はちゃんと、あたしの物語を楽しんでくれているんだ。

それが伝わってきて、なんだか油断したら泣いてしまいそうだと思った。



彼の手を振り切るようにして、こくこくと何度も頷く。

ようやく離れても、触れていたところがじんと熱い。

呼吸がうまくできない。



「えっと、ごめんね」

「……気をつけろ」

「はい。……その、トイレ。行ってきます」



わかりやすいと自分でも思ったけど、でも仕方がない。

恥ずかしくて、嬉しくて、頭を冷やすためにあたしはその場から逃げ出した。



本当、ずるい。

どんどん落ちて、抜け出せなくなってしまいそうだ。






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