恋文参考書
あたしはなんとか冷静さを取り戻し、トイレから章の元へと。
そのあとはずっと、なんてことない話をした。
学校のこと、最近あったこと、過去のあたしの作品のこと。
そしてもちろん、薫先輩のことも。
彼女のことについて複雑な心境になったことは否定しないけど、それでもこうしてゆっくりとした時間をふたりで過ごせたことがまるで奇跡みたいだから。
嬉しくて、あたしはいつも以上に自分でもわかるくらいにこにこと笑っていた。
そうやって時間を潰していたけど、いくらファーストフード店とはいえ、そんなにずっといることはできない。
試験勉強とかじゃあるまいし、することももうないからね。
ずるずると話を引き延ばして、あたしはいつまでだってここにいたかったけど、でももうさすがに粘れない。
店を出て、後ろに立つ章の方へ振り向き見上げた。
また明日ね、と手を振ってその場を立ち去ろうとすると、腕を掴まれる。
「え」
なに? と問いかけるより先に、掌になにかを押しこめられた。
『今日はありがとう』
それは、さっきのファーストフード店にあった紙ナプキン。
いつの間に書いたのか、確かに章の字でボールペンのインクが刻まれている。
こういうなにかを書くには不向きなものを手紙にするなって何度も言っているのに、なおらないんだから。
呆れつつも、思わず愛しさがこみ上げて、ふふっと声をもらす。
紙ナプキンで口元を隠した。