恋文参考書
この本によると手紙は『前文』、『主文』、『末文』、『後付け』の4つで構成されているらしい。
それぞれに書かなくちゃいけないことが決まっていて、たとえば『拝啓』といった頭語や季節の挨拶なんかは割とメジャーな部分だと思う。
そういう説明がわかりやすく載っていて、面白い。
何事においても基礎を知ることは大切だからね、きっと金井の役に立つ。
そしてあたしの原稿にも役に立つ。
なにかに使えないか、考えておこう!
ふふん、と上機嫌で書き写していると、バン、と恋文参考書の上に手をつかれる。
「なんのためにしているのか知らないけど、その前に説明することがあるんじゃない?」
そうでした。
思わず夢中になって忘れていたけど、詩乃がお怒りなんでした。
慌ててシャーペンも恋文参考書も放り出し、資料をぱたんと閉じる。
見ていませんよとせめてものアピールをして、姿勢を正して彼女に向き合った。
詩乃の様子にふみまでつられて背筋を伸ばしている。
……いやいや、ふみは怒られてないんだから、そんなことしなくていいんだよ?
なにをしているの? と思いつつもそんなことを口に出せば、すでに充分すぎるほど詩乃は苛立っているというのに、油に日を注ぐようなこと。
さすがのあたしでもしないよ。