恋文参考書
あたしの態度を見て、少し溜飲を下げた詩乃が唇を開く。
そして端的に、ストレートに、あたしへの問いを投げかける。
「彩はここ数日、なにをしているの?」
わかっていたとはいえ、答えにくい質問にうっと声をつまらせる。
誤魔化したらさっき以上に怒られるに違いないけど、誤魔化さないわけにもいかない。
あたしひとりの問題だったら構わないけど、これは金井と薫先輩の問題だ。
秘められた大切な、恋の話だ。
人の恋心を誰かに勝手に告げるなんて、そんなことできないよ。
自然と眉間にしわが寄り、視線は落ちる。
「……言えないようなことなの?」
そっと落とされる詩乃の言葉には不安、動揺、そして心配がこめられていた。
それが痛いほど伝わってきて、あたしはゆっくりと言葉を選んで口にする。
「今は、ごめん。言えない」
「どうして?」
「あたしだけのことじゃないから。
でも、心配されるようなことでもないよ!」
本当に! と強く頷く。
これだけは本当だ。うそなんて吐けない。
あたしは詩乃に心配かけたいわけじゃないもん。
「それに原稿に関わることでもあるんだ。
部室には来れないけどちゃんと書くから、大丈夫だよ」
ね? と彼女に笑みを向けた。