恋文参考書
「金井に脅されてたり、しない?」
声を震わせ、眉を下げる詩乃の姿にそうか、と思う。
好き勝手に暴走しているあたしを戒めるためだけじゃなくて、金井との関わりを気にしていたんだね。
金井の顔、いかついもんなぁ。
能天気で周りをぼんやり見ているあたしでさえこわいと思っていたんだから、詩乃が気にするのも当然。
悪いやつじゃないって知ってるけど、彼女はそんなこと知らないし見た目と行動に警戒されるのも仕方がない。
でも、本当は違う。
金井は口が悪いだけの、ツンデレヤンキーだ。
怯える必要なんて少しもない。
「金井はそんなこと、しないよ」
話すようになってから短いけど、心から信じるに値する人だって思う。
もう少し彼がうまく生きられたらいいのに。
そうしたらこんなふうに距離をあけている人なんていなくなるのにな。
惜しいなぁと思いつつも、金井が現状をどう思うかが問題で、あたしが勝手にできることなんてない。
だからせめてあたしの親しい人にだけは、大丈夫だよって言ってあげたい。
「はぁ……」
詩乃がため息を吐き出す。
困ったように眉をひそめて、だけどさっきほど表情は強張っていない。
「なにかあったら相談して。
あと、たまには部室に顔を出すこと」
それは、詩乃からの条件。
つまり許可がおりたということだった。
あたしはうん! と力強く頷く。
「ふみを抱き締めに来る!」
「そこは原稿しなさい」