恋文参考書




はたから見ても透けて見えるふみたちの恋心に呆れ半分、憧れ半分。

相手の気持ちに気づいているだろう一条が頑張ればいいのに、なんて考えるけど、本人たちにしかわからない事情もあるのかもしれない。

そうだとしたら……仕方がない、先輩のあたしがフォローを入れておいてあげよう。



「薫先輩に告白できない金井にとって、ふたりが目に毒なのはわかるけど落ち着いて」

「は? 誰もそんなこと言ってねぇだろうが」

「ふみは乙女だからね〜。
なんか理想あるんだよ、きっと」



だから、ね? と肩を軽く叩く。

元気出せよ、君は充分頑張ってるよ。

あたしの手の中のこれが、その証拠だ。



はあ、と金井がため息を落とす。

いやそうに眉間にしわを寄せて、なぜかなぐさめられているという流れを変えたいらしい。

ふみたちに向けられていた視線がようやくあたしの元に戻り、言葉短く問いかけられる。



「お前は?」

「え?」

「お前は、なんか理想ないのか?」



えー、あたしか……。

あたし、たいして恋について考えた事ないんだよなぁ。



ふみとは違って乙女じゃないし、彼氏が欲しいと思ったこともないし。

むしろできたら更新ペース落ちそうでこわいんだよね。

まぁ、あたしを好きになるような奇特な人はいないから、必要のない悩みなんだけど。






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