恋文参考書




でも、今まで考えたことはなかったけど、金井に訊かれたことをきっかけに考えてみる。



恋。出会い。告白。交際。別れ。

たくさんの単語を連想ゲームのごとく並べて……ああ、そうだなぁ。



「プロポーズは、春がいい」



ぽつりと呟いた声に、金井は視線で続きを促す。

それがなんだか安心できて、自然と言葉があふれる。



「出会いの春は別れの春だから、さみしいから、とびきりの幸せが欲しい」



桜やたんぽぽ、花のある柔らかい気候の中。

想いあう人と一緒の約束をすることは、きっと今までにないほど嬉しいことのはずだ。



頭に思い浮かべたことが、普段の自分とは違い、気恥ずかしくなる。

へへ、と照れ笑いをこぼせば、金井はふーんと相槌を打つ。



自分から訊いてきたくせに、興味なさそうだなぁ。

そもそも金井は話のそらし方が下手なんだよ。

なぐさめられるのが気に入らなかったのか知らないけど、どうでもいいことは話題にするんじゃないよ、まったく。



やれやれ、と立ち上がるために膝を伸ばす。

ずっとしゃがみこんでいたせいで、足が疲れきっている。



存在を忘れたかのようにいつも通りな部員を視界に入れて、こんなに隠れる必要はなかったなぁと思った。



ていうか!

あたしたちがいないと思うなんて無理だって言ったくせに、できてるじゃないの!






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