好きになれとは言ってない
駅に着くと、遥は何故か駅名を確認している。
どうも覚えていなかったようだ。
よく店までたどり着けたな、と思いながら、電車に乗ると、そこはいつもの空間で。
その明るさにもほっとして、わずかばかりしていた緊張が解ける。
普段通りに本の話などしているうちに、自分の降りる駅に着いた。
「課長、降りないんですか?」
と遥が立ち上がらない自分に訊いてくる。
少し迷って降りなかった。
「えっ?
あれっ? いいんですか?」
と遥は閉まる扉を見ながら、自分が立ち上がり、おたおたとしていた。
どのもち、もう電車は走り出しているのだが。
「遅いから送っていこう」
と遥を見上げて言うと、彼女は腰を下ろしながら、
「あ、でも、大丈夫ですよ。
私、このくらいに帰ることもありますし」
と言ってきた。
「残業でか」
「あー、いえ。
呑みに行ったりして」
と苦笑いするので、
「不良か」
と言ってしまう。
「……課長、私、大人です」
そんな話をしているうちに、遥の降りる駅に着いていた。