好きになれとは言ってない
 



 航は自分の車は持ってきていないので、会社の車を借りるようだった。

 助手席に乗るのは気が引けたが、だからといって後部座席に王様みたいに座るわけにもいかない。

「お、お邪魔します」
と言いながら、助手席に乗ったが、特に航からの返事はなかった。

「買いに行くお店は決まってるんですか?」

「いつも同じところだから」
と素っ気なく言ったあとで、

「何処か他にいいところがあれば言え」
と会社から車で十分くらい行ったところにある美味しいケーキ屋さんの名前を航は言った。

「あ、美味しいですよね、あそこのお菓子。
 あんまり甘くないチョコ系のケーキと、レーズンバターサンドが特に」

「他の店でもいいぞ。
 看護師さんたちは新しい店の方が喜ぶかしもれない」

 そう前を向いたまま航は言ってくる。

「いえ。
 今日、あそこに行ったら、あの店のケーキが食べられるから頑張ろうっ!
 と思って、朝から頑張って仕事してる看護師さんが居たら悪いので、変えない方がいいかと思います」

「お前はそういう妄想して頑張ってそうだな」
と半笑いで言われたが、

「はい」
と遥は怯むことなく答える。
< 62 / 479 >

この作品をシェア

pagetop