好きになれとは言ってない
航は自分の車は持ってきていないので、会社の車を借りるようだった。
助手席に乗るのは気が引けたが、だからといって後部座席に王様みたいに座るわけにもいかない。
「お、お邪魔します」
と言いながら、助手席に乗ったが、特に航からの返事はなかった。
「買いに行くお店は決まってるんですか?」
「いつも同じところだから」
と素っ気なく言ったあとで、
「何処か他にいいところがあれば言え」
と会社から車で十分くらい行ったところにある美味しいケーキ屋さんの名前を航は言った。
「あ、美味しいですよね、あそこのお菓子。
あんまり甘くないチョコ系のケーキと、レーズンバターサンドが特に」
「他の店でもいいぞ。
看護師さんたちは新しい店の方が喜ぶかしもれない」
そう前を向いたまま航は言ってくる。
「いえ。
今日、あそこに行ったら、あの店のケーキが食べられるから頑張ろうっ!
と思って、朝から頑張って仕事してる看護師さんが居たら悪いので、変えない方がいいかと思います」
「お前はそういう妄想して頑張ってそうだな」
と半笑いで言われたが、
「はい」
と遥は怯むことなく答える。