泥棒じゃありません!
「私が先週からビスケット企画と一緒に進めてる案件があるじゃない? そのビスケット企画の担当が三橋菜月でね……」
私とオガちゃんは「あー……」と同情的な相槌を打った。
「仕事できないならできないで仕方がないし、それだけならこっちもそれ相応のフォローを考えられるんだけど……うちの課長がさ」
「彼女に甘々ですもんね」
オガちゃんがそう言うと、悠さんは頷くようにがっくりと項垂れた。
「あの子、今までもそうやって世渡りしてきたんだろうね。ある意味すごい才能だと思うけどさぁ……会社では勘弁してもらいたいよ」
三橋菜月はオガちゃんと同期で、そろそろ入社して丸二年が経つ。自分でも他と比べて仕事ができていないと自覚しているのか、足りない部分は上司や周りの男性陣に媚びを売ることでカバーしている。典型的な“異性には好かれるが同性には嫌われるタイプ”だ。
「四月にここに異動して来るっていう、統括マネージャーって肩書きの人物が救いの神であることを祈りたいわ」
そう言って悠さんはため息を漏らした。
このところお菓子部門全体の売り上げが伸び悩んでいて、売上向上の起爆剤にと、お菓子部門を統括する優秀な人間が来るという話は私も聞いていた。でも、上で話が止まっているのか、それがいったいどういう人物なのかということは一向に伝わってこない。
「まあ、ああいう人はあとで痛い目見ますから」
普段穏やかなオガちゃんがめずらしく強い口調で言ったので、驚いてしまう。
「……もしかして、オガちゃんも彼女となんかあった?」
私が訊くと、オガちゃんは首を振りながら「いえいえ、違うんです」と慌てている。