泥棒じゃありません!
アメリカに行ってからはアメリカ国内でのみ販売されるお菓子の開発に尽力し、その商品もヒットに繋がった。
彼の功績を称え、その後Branch managerという、実質アメリカ支社長のポジションに就いていたのだけれど、その蓮見さんがまさか、お菓子部門の統括マネージャーとして戻ってきたとは。
「こう言ったらなんですけど、どう考えても統括マネージャーなんてアメリカ支社長よりも扱いが下のような気が……」
私の言葉に、悠さんも同調するように頷く。
「私もそう思う。まさか、降格人事だったってことは……いくらなんでもないよね」
でもこれで、なぜ蓮見さんが日本にいたのか、はっきり理由がわかった。
年度始めの全体朝礼で統括マネージャーと紹介されたのは、悠さんの言っていたとおり蓮見さんだった。
壇上に立った蓮見さんは簡単な挨拶のみで、詳しい経緯や理由はなにひとつ話さなかった。ある意味、朝礼は時間が限られているから当然と言えば当然かもしれない。でもやはり他の社員も今回の人事には疑問を抱いているようだった。
部署に戻り、蓮見さんはお菓子部門の社員が集まったところで改めて挨拶をした。内容は全体朝礼の時と同じく、自己紹介を交えた簡単なもの。ひとつ違っていたことと言えば、
「この大役を仰せつかったからには、容赦なくいきますので、そのつもりで」
と言って、私の方をちらりと見たことだ。
横にいた悠さんが、私の太もも辺りを小突く。悠さんは、私が新人時代に蓮見さんにやりこめられているところを、一番近くで見ていた人だ。きっと「ちょっと芦澤ちゃん、またロックオンされてるよ」ということと「大丈夫?」という言葉の代わりだろう。
私も「覚悟してます」という返事の代わりに、悠さんの太もも辺りを手の甲で軽く叩き返した。