泥棒じゃありません!
「ねえねえ。さっき蓮見マネージャーに視線向けられたのって、芦澤さんだよね。どうして?」
私のところに書類を置きに来た、ビスケット企画のひとつ上の先輩である寺内さんが、そんなことを聞いてくる。
彼女は去年、健康食品部門からお菓子部門に異動してきたので、以前の状況を知らないのも無理はない。
「ああ……私が新人の頃、毎日蓮見マネージャーに絞られてたんで、それを覚えていたんだと思いますよ」
「えー、いいなぁ。蓮見マネージャーにならあたしも絞られたいかもー」
さすが、三橋菜月に寄ってくる男の“おこぼれ”をもらっているという噂の人物だけはある。ため息をつきそうになったが、なんとか無理やり笑顔を貼りつけた。
「そうですか? 結構厳しいですよ」
「だってめちゃくちゃイケメンじゃない? 蓮見マネージャーって。イケメンになら、怒られてもあたしは嫌な気はしないなぁ」
イケメン……まあ確かに。そこは認めざるを得ない。
推定一八〇センチ超えの高身長で細身、目はくりっとしているけれど鼻筋が通っているせいか、可愛らしいと言うより男らしい顔つきをしている。誰かに写真を見せて、この人は俳優さんだと言ったら信じてしまいそうなビジュアルだ。以前、蓮見さんがチョコレート企画にいた時も、あちこちの部署の女性が意味もなく来ていたっけ。
でもねぇ……と思うわけですよ、過去にこてんぱんにされた身としては。
「一緒に働けばわかりますよ」
寺内さんは「ふうん」とまったく納得のいっていない顔でそう言ってから、自席に戻っていった。
蓮見さんを知らない人なら、見た目に騙されてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。彼の厳しさを知らないから、夢見心地で浮かれていられるのだ。