泥棒じゃありません!
「……は?」
「聞こえなかったか? 俺は『白紙に戻す』と言ったんだけど」
会議室内が、水を打ったように静かになった。
蓮見マネージャーは私が持っていった資料を素早く読みこみ、パワーポイントを使ってのプレゼンも頷きながら真剣に聞いてくれていた。
手ごたえあったと思ったのに……これだ。
この感覚、今はっきりと思い出した。これこそが、蓮見裕貴だ。
「蓮見君……いや、蓮見マネージャー。もう最終段階に来ているプロジェクトを白紙に戻すなんて、いくらなんでも……経費だってかかるわけですし」
私の横に座っていた舟越部長が、苦笑しながらそう言った。
先頭に立ってこのプロジェクトを仕切っているのは私だけれど、管理者としてこれまで統括してくれていたのは直属の上司である舟越部長だ。
以前は自分の部下だった蓮見マネージャーが、今度は自分の上司として異動してきたのだから、舟越部長もやりづらそうだ。
舟越部長は、困惑した表情で蓮見マネージャーを見つめている。
「……芦澤。この商品のコンセプトはなんだ?」
蓮見マネージャーは舟越部長の言葉には答えず、私の方を向いてそんなことを訊いた。
コンセプトは資料にもでかでかと書いてあるし、さっきプレゼンでも話したのになぜ、と思いながらも、答えなくては先に進まない。
「忙しさの中にひと時の癒しを、というコンセプトです」
「うん。じゃあ、このチョコがスティック型である必要性は?」
蓮見マネージャーがさらに攻めてくる。
「多忙なかたは休憩する時間も限られていると思うので、コーヒータイムなどにさっと食べてもらえる形を、と考えました」