泥棒じゃありません!
「さっき試作を食べさせてもらったけれど、味は確かに悪くない。でも次また買うかと言われれば、俺は買わないかもしれない。いまひとつ、決め手に欠けるんだよ」
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。今まで必死にやってきたことが全否定されたような、ショックと脱力感が襲ってくる。
私は胸の奥底からせり上がってくるものを堪えようと、口を真一文字に結んだ。
「お菓子は一回きりじゃなく、次も手にとってもらえる味にしなくては先細りだ。開発費用が安く済んでも、長く売れるものじゃなければその開発費用自体が無駄になってしまう。費用をかけても長く売れるものを作るか、売れずに経費を無駄にするか、どちらがいいかなんて考えなくてもわかるよな?」
誰も口を開く人はいなかった。当然だ。それ以上の正論はない。
蓮見マネージャーは畳み掛けるように、容赦なく次の言葉を並べる。
「芦澤、そしてここにいるみんなもだけれど、“私たちはこれぐらい努力したんですよ”というこっち側の都合は、消費者側からしたらどうでもいいことだ。その商品が美味いか不味いか、次も買いたいか買いたくないか。それしかないんだよ」
それは、よくわかっています。そう喉まで出かかった。
でも本当にわかっていたのだろうか。自分たちが掲げたコンセプトや、いろいろな都合がいつの間にか中心になっていて、肝心の消費者のことは隅に追いやってしまっていたんじゃないだろうか。
会議は予定時刻を三十分オーバーして、暗いムードのまま終わった。