不安の滓
 画面を見ないままに操作をしたので、ボタンの位置を間違えたのだろうか?
 そう思いながら、前に向けていた視線を、一瞬だけカーナビに向けた――。

(――――!!!)

 男は戦慄に凍りついた。

『やーっと気が付いたで』
『ホンマに鈍いなあ』

 ラジオから流れる声に、カーナビの画面に映ったモノに。
 男は――気が付いてしまった。

 それは、死んだはずの同僚の声であり、画面に映っていたのは青白い顔でこちらを見ている同僚だった。

(なぜ……!?)

 動揺のために、車を止めて逃げ出そうとするのだが――車は止まらない。
 アクセルを離しても、ブレーキペダルを踏んでも、一定の速度を保ちながら車は進む。
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