不安の滓
 右に、左にと。男のハンドル捌きに従って、車は山道の中を進んで行く。

『こんだけ独り身の状態が続くと、ホンマに誰でも良いから一緒に居たいもんやわ』
『それやったら連れてくればエエやん』
『まあ、そのつもりやねんけどなー!』

 途切れ途切れで聴いていたラジオの内容に苛立ちを覚え、ゆっくりと走る車の中でラジオのチャンネルを変えようと思った――その時である。

 男は異変に気が付いた。

(どうして……変わらない!?)

 視線を前に向けたまま、男は違和感を覚えた。

 カーナビのディスプレイ上にある、ラジオの選局ボタンを押しても、流れてくる音声が一向に変わらない。
 音量を下げて、意味不明な会話が続くラジオの音が聴こえなくしてしまおうと思っても、音声は消えるどころか、ボタンを操作する前よりも大きく、ハッキリとした声で笑い声が男の耳に響いてくる。
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