アフタヌーンの秘薬
「僕は龍峯には返しきれない恩があります。自分の生涯をかけて龍峯に尽くす必要があります。誰よりも龍峯の繁栄を願っている」
小さい頃から聡次郎さんや慶一郎さんと共に育ってきた月島さんは、龍峯に一社員以上の愛着を持っているのだろう。
「でも僕は聡次郎の幼馴染で1番の理解者だと思っています。聡次郎の人生は自分で選ばせてあげたいとも思っている」
「はい……」
「お見合い相手が聡次郎の好きになれる人なら良かったのですが……」
「お相手の方は問題のある方なのですか?」
「いいえ。申し分のない企業のご令嬢です。三宅さんは銀栄屋をご存じですか?」
「ええ、百貨店ですよね?」
「そうです。銀栄屋のいくつかの店舗に龍峯の店を出させてもらっているのです。お相手の方は株式会社銀栄百貨店の社長令嬢なんですよ」
それは本当に申し分のない相手だ。銀栄屋は主要都市には必ずある大手百貨店。その社長令嬢とは龍峯にとっても良縁間違いなしだ。
「もし聡次郎さんがその方と結婚すれば、今後銀栄屋の他の店舗でも龍峯が出店させていただくこともできますしね」
「その通りです。それにあちらのお嬢様も聡次郎を気に入ってくれています」
それなのになぜ聡次郎さんは破談にしたいのだろう。よっぽど性格の合わない人なのだろうか。ごく平凡な私が婚約者でいることが尚更申し訳ない。