アフタヌーンの秘薬
「ありがとうございました」
アパートの前まで送ってもらい月島さんにお礼を言った。
「いいえ、こちらこそ。聡次郎をよろしくお願いします」
この言葉に引っ掛かるものを感じたけれど、引き続き婚約者を演じてくれという意味なのかと理解した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。お疲れ様でした」
月島さんの車が見えなくなるまで見送り、自分の部屋に帰るとどっと疲れが出た。
こんなことがいつまで続くのか。私はいつまで聡次郎さんに振り回されなければいけないのだろう。
私のこと、どう思ってるの……?
◇◇◇◇◇
新茶が市場に出回る前に龍峯も新茶の予約注文を受けるようになる。
3月の下旬には各店舗やネットから予約が次々と入り、龍峯本店でも古明橋の企業からたくさんの注文が入っていた。
「このお客様は去年と同じでいいと言ったのね? なら送り先が2ヶ所なのに3セット注文はなぜ?」
店舗事務所で私は花山さんに厳しい口調で責められていた。
「あの、いつもと同じでと言われたので去年のリストから送り先を書きました……3つとはっきり言ったので毎年そうなのかと……」
「1つの送り先ごとにきちんと確認しなさい! あなたが決めるんじゃなくお客様が決めるの!」
「すみません……」
怒鳴られて私の声はどんどん小さくなる。
普段店舗の営業には口を出さない花山さんはこういうときだけ店長面をする。