アフタヌーンの秘薬
「あらー、お疲れ様ですー」
聡次郎さんを見た途端花山さんの声が高くなり、表情も明らかに作り笑顔になった。
「何かありましたか? 会話が会社中に響いてますよ」
怒鳴り声がオフィスや店舗にまで聞こえているなんて下品もいいとこだ。花山さんが恥ずかしそうにしている様子が気持ち悪く、いい気味だなんて思ってしまう。
「三宅さんがまだ龍峯のお仕事に慣れないようなので励ましていたんですー」
聡次郎さんを前にバレバレの嘘をつく花山さんに呆れてしまう。
「そうですか。でも声量には気をつけてくださいね」
「申し訳ありません」
花山さんはお腹に両手を当てて頭を下げ聡次郎さんに謝った。
「それと花山さん、三宅さんは特別なんです」
「特別とは?」
「母さんがお願いして働いてくれているんだ」
「え?」
聡次郎さんの言葉に私までも驚いた。
「奥様が?」
「バイトではあるけれど、こちらから頼んで働いてもらってるんだ。だから厳しくして辞められたら困るのは花山さんかもしれないですね」
聡次郎さんは穏やかな声で告げたけれど目が笑っていない。花山さんの顔がどんどん青くなっていく。
「そういうことだから丁寧に教えてあげてください」
「かしっ、かしこまりました!」
花山さんは完全に焦っている。奥様に頼まれて働いていると言われ、聡次郎さんに牽制されてはこれ以上私にうるさく言うことはできない。
聡次郎さんは満足そうな顔をして廊下へ出て行った。