アフタヌーンの秘薬
「こんにちは」
女性は商品には目もくれず、迎えた私と川田さんの前まで歩いてきた。
「栄と申します。本日は奥様とのお約束がありまして参りました」
「ああ、はい……少々お待ちください……」
栄という名に引っ掛かったけれど、私は全身から気品を漂わせる女性に座るように促すと事務所に入った。
「あの、栄さんという方が奥様に会いに来店されたのですが……」
麻衣さんにそう伝えると麻衣さんの顔が曇った。
「そう……奥様を呼ぶからそのままお待ちいただいて」
「かしこまりました」
お店に戻ると川田さんが女性に冷たい龍清軒をグラスに注いでお出ししたところだった。
「ありがとうございます」
女性は川田さんにそう言うと両手でグラスを持ちお茶を飲んだ。その仕草から育ちの良さを感じた。芸能人として活躍できそうなほど美人な彼女は、ただお茶を飲む姿だけでも絵になった。年が近い私が卑屈になってしまうほど美しい。
奥様とこの人が会うなんて意外だった。奥様のお客様はいつも仕事関係の人ばかりだ。この女性はどう見ても仕事関係の人とは思えない。
「愛華さんお待たせしました」
事務所から奥様が出てきた。
「お久しぶりでございます」
女性は立ち上がると奥様に向かって一礼した。
「さあこちらに」
奥様は女性を連れて奥の廊下に出て行った。廊下へのドアが閉まる前に「三宅さん、お茶を応接室にお願い」と言ってドアを閉めた。
お茶を用意して応接室の前まで運ぶと、ドアの外からでも中の2人が笑い合う様子がわかった。