アフタヌーンの秘薬
「そんなのどうでもいい。俺の生活に干渉される筋合いはないよ。母親でもな」
「でも……」
悩む私に聡次郎さんは「とりあえず今夜だけでも」と縋るような目を向けた。
「今夜……だけなら……」
私にしては勇気を出した言葉を聡次郎さんは満面の笑みで受け入れた。
今のアパートの契約もある。すぐに一緒に住む提案は受け入れられないけれど、ここまで迎えに来てくれた聡次郎さんを帰らせるのは申し訳ない気がした。
「荷物取って来るので待っててください」
「わかった」
部屋に帰った私は一泊分の荷物をボストンバッグに詰めた。明日は都合よく龍峯での勤務だ。今ではもう聡次郎さんの部屋から出勤しても社員の目を気にしなくてもいいのだ。
明日の着替えと歯ブラシと化粧水とメイク落としも。充電器にドライヤー、万が一体調を崩すといけないから常備薬を入れて……。
気がつけばバッグの中には一泊分以上の荷物が入っていた。今夜だけと言ったのに必要のない日用品を持っていこうとする自分がおかしい。
車に戻ると「大荷物だな」とパンパンに膨れたボストンバッグを見て聡次郎さんも笑った。
「女の子には色々あるんですよ」
「はいはい」
運転している聡次郎さんはとても機嫌がよさそうだ。
一緒に住むということに実感は持てない。過去の恋人とも同棲の経験はない。同棲したいと思ったこともないけれど、聡次郎さんとなら悪くはないと思えていた。