アフタヌーンの秘薬
聡次郎さんの部屋に入っても緊張のあまり突っ立っていた。何度も来て食事をした部屋なのに、今日はいつもと違うように感じてしまう。そんな私に彼は「梨香、お茶」と言ってきた。
「自分で淹れてください」
「俺のは美味しくないんだよ」
「私のお茶だって美味しいとは言ってくれないくせに」
私の指摘に聡次郎さんは返事をすることなく「先に風呂入るから淹れといて」と言ってバスルームに行ってしまった。
ソファーの上にボストンバッグを置くと、もう勝手知ったるキッチンに立って準備をした。
お湯が沸くのを待つ間明日の朝ごはんを考えることにした。聡次郎さんの家でご飯を作ることも増えたから、冷蔵庫にはある程度の食材が入っている。
メニューを決めたところで聡次郎さんがバスルームから出てきた。
髪を濡らしたまま私の後ろに立ち、「お茶はあとでいいから風呂入ってこいよ」と言われ、忘れていた緊張感が戻ってくる。
「う、うん、入ってくる……」
今まで何度も聡次郎さんの部屋に来たけれど、いつもその日の内に帰ることが前提だった。でも今夜はもうこの部屋から出ないのだ。緊張しないわけがない。
ボストンバッグから下着やメイク落としを出したとき、パジャマを忘れたことに気がついた。
「パジャマ忘れた……」
「俺の貸そうか?」
「お願いします……」
「こんなに大荷物なのにパジャマ忘れるなんてうける」
「もう、自分でも呆れてるんだから笑わないでください」