アフタヌーンの秘薬
いらないものばかり持ってきて肝心なものを忘れてしまった。だって聡次郎さんの部屋に泊まるのに動揺しないわけがない。
「着替えは出して置いとくから入ってきな」
「はい」
初めて入ったバスルームはホテルかと思うほど広く、私のアパートの狭くて古い浴槽とは雲泥の差だ。
同棲するとしたらここに住むのか……。
ご飯を作って掃除して洗濯して聡次郎さんの帰りを待つ。結婚なんてまだ考えられないけれど、そんな生活をするのも悪くないかもしれない。
バスルームから出ると洗濯機の上に置かれたカゴの中にバスタオルとTシャツとスウェットが置かれていた。私には大きいTシャツを着ると、丈が長く太ももまで隠れるほど。スウェットなしでワンピースとして着られそうだ。もちろんスウェットのウエストもゆったりしていて、歩くと腰の下まで落ちてしまいそうだ。
持ってきたドライヤーをコンセントに差し込み髪を乾かそうとすると、リビングから「俺のも乾かして」と言う聡次郎さんの大声が聞こえた。
自分の髪を乾かしてリビングに戻ると、聡次郎さんはキッチンでお茶を淹れていた。
「結局自分で淹れてるじゃない」
「喉渇いたから」
聡次郎さんはマグカップ2つにお茶を注ぐとテーブルに置いた。ソファーに座り首にかけたタオルを取った。
「乾かして」
子供のように乾かしてもらえるのを待つ姿に思わず口元が緩む。ソファーに座る聡次郎さんの後ろに立って髪を乾かした。誰かの髪を乾かすのは初めてで、サラサラになるまで念入りに乾かした。