アフタヌーンの秘薬
「その栄のお嬢様ってもしかしてこの間お店に来た奥様のお客様のことですか?」
先日お店に来た若くて綺麗な女の子。確か名前が栄と名乗った。
「そう、あの方よ。龍峯のビル全体に活け花を飾るそうで、それを活けに来てくださるの」
エレベーターが1階に着き2人で降りた。
「梨香さんは気にしなくていいからね」
「どういう意味ですか?」
「栄のお嬢様、栄愛華さんは聡次郎さんの婚約者なの」
この言葉に目を見開いた。あの子が聡次郎さんの婚約者……銀栄屋の社長令嬢だったのだ。
「もちろん奥様が決めていただけで聡次郎さんは嫌がっていたのよ。今は梨香さんがいるし、愛華さんが龍峯を出入りしたって何も変わらないわ」
麻衣さんはそう言うけれど私の不安はどんどん膨らむ。
「奥様が勝手に愛華さんに活け花をお願いしてしまったの。元々付き合いのある花屋さんにお願いしていたのを契約を切ってまで……」
あの綺麗な子が聡次郎さんの婚約者……。
「でも花を活けるだけで聡次郎さんに会いに来るわけでもないし、聡次郎さんも会社にいないことがほとんどだし……」
あんな子との縁談を断って私を選んだ……。
「梨香さん?」
あの子の方が何倍も綺麗で気品も教養も資産も持っている……。
「梨香さん? 大丈夫?」
「ああ、はい、大丈夫です……」
「私からこんなことを言ってごめんなさい。あとで知るよりはいいかと思って……」
「気を遣っていただいてすみません……」